研究

(2024年2月25日更新)

惑星大気DRAMATIC研究チーム(自称)

現在は東北大学 惑星大気研究室内で活動を行う、
GCM (General Circulation Model / Global Climate Model: 大気大循環モデルあるいは全球気候モデル)の活用を軸として
惑星大気のDRAMATIC (Dynamics, RAdiation, MAterial Transport and their mutual InteraCtions: 力学過程・放射過程・物質輸送とそれら相互の絡み合い)に迫る研究チームです。
対象は現在は火星(現在及び35-40億年前)と金星が主ですが、潜在的には地球やタイタン、木星等の巨大ガス惑星、太陽系外惑星も視野に入れています。

メンバー

(身分/氏名/主要研究テーマ)
PI・助教 黒田 剛史  統括
PD   鎌田 有紘  火星古気候・水環境
D1   狩生 宏喜  金星硫酸雲・大気波動
M2   古林 未来  火星地下水・レゴリス水吸着
M1   池田 有里  火星天気予報・ダストストーム発生条件
B4   鹿志村 樹  深層学習を用いた火星地表画像からのダスト濃度推定
B4(東京理科大) 佐藤 礼一 火星大気中の水蒸気過飽和とHDO/H2O同位体分別

(過去のメンバー・テーマは研究指導歴を参照)

研究内容

※すみません、以下は整備中で近々更新予定です。


  • 火星大気大循環モデルDRAMATIC MGCMの開発

  • 火星のドライアイス降雪に見られる規則性の発見

  • DRAMATIC MGCMと観測データを用いた火星大気の力学・物質循環の研究

  • 木星成層圏大気放射

  • (進行中)金星の硫酸雲・大気化学モデルの構築

  • (進行中)液体の海を置いた火星古気候シミュレーション

  • (進行中)地球のPM2.5輸送予測:ひまわり8号データの同化を通して

火星大気大循環モデルDRAMATIC MGCM

東京大学大気海洋研究所、国立環境研究所、海洋研究開発機構が共同開発している地球大気海洋結合モデルMIROCをベースとした火星大気大循環モデル(MGCM)を開発しています。DRAMATICとはDynamics, RAdiation, MAterial Transport and their mutual InteraCtionsの略で、火星大気の力学過程・放射過程・物質輸送とそれら相互の絡み合いを解き明かすことを目的としています。
現在の火星は自転角速度と軌道傾斜角が地球と同等のため地球に似た四季が存在しますが、大気は地球と比べて大気が薄く(地表面気圧は約150分の1)、主成分は二酸化炭素(95%)で冬極で凝結するため地表面気圧の年変化は25%にも及び、大気中に浮遊するダストが重要な加熱源となって、大気の温度構造や循環は地球の成層圏~中間圏と定性的に似ています。またダストストームは時に全球を覆い尽くす規模となり、大気の温度構造や循環に大きな影響を与えます。
DRAMATIC MGCMは二酸化炭素とダストの放射効果、二酸化炭素の相変化など火星独自の物理過程を取り扱い、大気温度や地表面気圧の季節変化およびダスト濃度による変化、季節極冠の厚さなどを再現しています。また水循環やHDO/H2O同位体分別の導入も進んでいます。ゆくゆくは表層~大気間の水の出入り、光化学過程、大気散逸の効果なども導入し、初期火星から現在に至るまでの気候変動研究への着手を考えています。また将来火星探査計画を見据えて、物質循環のデータ同化シミュレーションへの着手も予定しています。


(左)地表面気圧の年変化(赤:モデル、青:Viking 2号観測)、(右)CO2季節極冠量[kg m^-2]の年変化。


ダスト光学的厚さ=0.5(左)、1.0(中)、3.0(右)における温度[K](黒コンター)と南北風{m s^-1](青コンター)のシミュレーション結果。左から非ダストストーム、局所ダストストーム、全球ダストストームに相当する。季節は北半球冬至(Ls=270°)。


水循環シミュレーションの結果:水蒸気カラム積算量[pr.um](上)とHDO/H2O比[wrt. SMOW](下)。

DRAMATIC MGCMと観測データを用いた火星大気力学の研究

火星において秋季~冬季に北半球中・高緯度で見られる傾圧不安定波は、東西波数1~3、周期2~6日の成分が卓越しています。秋季では地表面付近において東西波数1と2の成分の振幅がほぼ同等、冬季では東西波数1成分の振幅がより大きくなります。MGCMを用いた計算とMGS-TES(※1)データの解析によりこのような傾圧不安定波の構造の季節変化について、大気の不安定性の変化から説明できることを示しました。また冬季の全球ダストストーム時には傾圧派の振幅が著しく弱く、卓越波数が大きくなるメカニズムについても、MGCMによる再現実験と線形論から示しました。[Kuroda et al., 2007]

※1…MGS-TESとはMars Global Surveyor搭載Thermal Emission Spectrometerのことで、1998年の火星周回軌道投入から2004年まで火星大気の3次元温度場、ダスト・水蒸気・氷雲の2次元カラム積算量分布を観測した。

MGS-TES観測データから求めた、北半球秋季(上)と冬季(下)における経度平均温度[K]と東西風速[m s^-1](温度風の式より計算)(左)、およびpotential vorticity gradientに火星半径を乗じた値[×10^-4 s^-1](右)。potential vorticity gradientが負の値をとる領域周辺では大気不安定の必要条件を満たしており、東西風の鉛直シアーが大きいこととpotential vorticity gradientが負の値を示す領域が大きいことから、春季よりも冬季の方が不安定性が大きく、傾圧不安定波の振幅も大きくなることが理論的に示される。[Fig. 3 of Kuroda et al., 2007]

 

赤道大気に見られる東西風の半年振動は地球の上部成層圏および中間圏ではよく知られた現象ですが、火星大気にも同様の半年振動が存在することをMGCMによる計算と観測データより初めて示しました。MGS-TESの観測データより昼夜の温度差に明確な半年周期の振動が見られることを発見し、MGCMを用いて東西風の半年振動をシミュレーション、その生成メカニズムを調べました。その結果、火星大気の半年振動における西風加速の要素はケルビン波が主である地球とは異なり、鉛直循環、定常プラネタリー波、半年周期を持つ熱潮汐であることを示しました。 [Kuroda et al., 2008]

火星大気東西風の半年振動の計算結果。各図の左端および右端を北半球春分とした赤道域(10°N~10°S平均)経度平均東西風速[m s^-1]の高度分布の年間変化を示している。左は観測に基づくダスト濃度の年変化(北半球秋季にLs=250°(※2)をピークに光学的厚さが1.0まで大きくなり、それ以外の季節では概ね0.2)を導入、右はダスト光学的厚さを年間一律0.2に設定している。[Fig. 2 of Kuroda et al., 2008]

※2…Lsとは火星中心黄経とも称し、火星の季節を表す指標として用いられる。Ls=0°、90°、180°、270°がそれぞれ北半球春分、夏至、秋分、冬至となる。

 

北半球の冬至前後に発生する全球規模のダストストームは、極夜である北極上空の温度を40~60Kも上昇させていることが観測から知られています。MGCMを用いて、全球ダストストームが極夜の昇温を引き起こすメカニズムを調べました。その結果、ダストストームによって高度40~60kmで夏半球から冬極へ向かう南北循環と冬極上空での下降流が著しく強まることで強い極夜の昇温が発生し、またこの子午面循環の維持には熱潮汐波・プラネタリー波・小さいスケールの波(重力波や水平渦)それぞれの役割が重要であることを示しました。[Kuroda et al., 2009]
なお、この研究は火星大気ではそれまであまり議論されていなかった重力波の重要性を初めてモデル研究から示唆したもので、火星大気の重力波の研究はその後共著者の一人であるDr. A.S. Medvedevによって発展的に引き継がれ[Medvedev et al., 2011a: Icarus 211, 909-912; 2011b: J. Geophys. Res. 116, E10004など]、火星の中上層大気の様子を決定する要素としての重力波の重要性が確立されるに至りました。

全球ダストストーム相当のダスト光学的厚さ(=3.0)の北半球冬至(Ls=270°)における波動による東西風の加速度(EP-flux divergence)[m s^-1 sol^-1](※3)。(a)すべての波の成分の合計、(b)熱潮汐波(周期1日、半日、1/3日、1/4日の波の合計)、(c)プラネタリー波(周期が1日より長い波)、(d)重力波と水平渦の和(東西波数が10より大きく、周期が1日より短い波)。熱潮汐波、プラネタリー波、重力波などのスケールの小さな波がそれぞれ冬極の風速の加速に寄与している。[Fig. 3 of Kuroda et al., 2009に色づけ]

※3…solとは火星の1太陽日で、88775秒(24.66時間)に相当する。

火星サブミリ波サウンダFIRE

 次期火星探査衛星への搭載を目指して、火星サブミリ波サウンダFIRE (Far-InfraRed Experiment)の検討が進められています。サブミリ波サウンダは大気の温度分布、また水蒸気(HDOなど同位体比も含む)分布、微量物質(オゾン、過酸化水素、水酸化ラジカルなど)分布など大気組成を、ダストが浮遊する火星大気においてはそれを透かしてダストストームの内と外を見通した観測が可能です。さらに大気吸収線のドップラーシフトを利用した中・上層大気の風速観測、地表面物性の観測も可能で、同位体比観測と合わせて地表~大気間の物質の出入りなどに迫ることもできます。その観測は水・微量物質循環をはじめとする火星の気象に多くの知見を与えるのみならず、上層(高度100~200km)大気の組成を見ることで大気の光化学過程・散逸過程の理解にも貢献することが期待されています。
ダスト気象学解明を目指す「MELOS気象オービタ」向けの測器デザイン、期待される観測感度・精度とそれらの科学的意義は論文[Kasai et al., 2012]にまとめられています。

木星成層圏大気

先日ESA(欧州宇宙機関)による次の大型ミッションに木星系探査JUICE計画が採択され、2022年打ち上げ、2030年木星到達とする計画が発表されました。現在この計画に向け、ドイツ・マックスプランク太陽系研究所と共同で木星成層圏大気大循環モデル(JSGCM)を開発しています。木星大気は太陽放射のみならず内部熱源の存在にも支配され、速い自転速度の影響で南北に細い縞模様をいくつも形成するバンド構造が見られ、地球の準2年振動(QBO)に似た「準4年振動」(QQO)の存在が示唆されるなど、比較惑星気象学のターゲットとしても興味深いものです。成層圏の大気放射はCH4, C2H2, C2H6(メタン・アセチレン・エタン)に主に支配されており、これらの大気成分による太陽光吸収・赤外放射を考慮した放射コードを現在作成中で、JSGCMへの導入を予定しています。